バンコクにおける都市鉄道の土地利用、交通への影響

このページでは、丸善出版より2016年1月に刊行予定の『グローバル時代のアジア都市論』の最新事例を随時アップデートしていきます。

■バンコクにおける都市鉄道の土地利用、交通への影響

文責:松行美帆子

タイの首都バンコクでは、1999年にBTSと呼ばれる高架鉄道2路線、2004年にMRTと呼ばれる地下鉄1路線、2010年にバンコク市内と空港を結ぶエアポート・レール・リンクと呼ばれる鉄道1路線が開通した。
これらの都市鉄道の開業に伴い、バンコクにおける土地利用はめまぐるしく変化しており、顕著な変化の一つとしては、都市鉄道の駅周辺におけるコンドミニアム(高層マンション)の建設ラッシュである。

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建設予定のコンドミニアム

CIMG1253建設中のコンドミニアム

バンコク首都圏では増大し続ける人口に伴い、その市街地も拡大し続けており、とくに都市中間層と呼ばれる人々が、郊外に戸建ての家を構え、車で都心まで通勤し、こどもの学校の送り迎えをするという北米型のライフスタイルを好むと言われており、慢性化する交通渋滞の要因の一つであると言われていた。

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郊外の戸建て住宅

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郊外のgated communityの中の住宅

バンコク首都圏では増大し続ける人口に伴い、その市街地も拡大し続けており、とくに都市中間層と呼ばれる人々が、郊外に戸建ての家を構え、車で都心まで通勤し、こどもの学校の送り迎えをするという北米型のライフスタイルを好むと言われており、慢性化する交通渋滞の要因の一つであると言われていた。
駅周辺に建設されているコンドミニアムは、その価格帯から中間層から高所得層をターゲットにしていると思われる。では、どんな人々がこのコンドミニアムに住み、どのようなライフスタイルを取っているのだろうか。都市鉄道の導入に伴う、コンドミニアム開発は、バンコクのスプロールの防止と交通問題にどのような影響を与えたのか。2012年8月に、バンコクの都市鉄道の駅から徒歩圏のコンドミニアム31件において251名の居住者に実施したアンケート調査から、その影響を読み解いていこう。
まず、どのような層がコンドミニアムに居住しているかについてであるが、平均年齢は26歳で、一人暮らし(41%)もしくは二人暮らし(40%)が大半である。独身者が7割を占め、独身者が単身で住んでいるか、こどものいない夫婦が2人で住んでいるケースが大半であると言えよう。9割以上が大卒で、大学院を修了した人も4割近くおり、世帯収入からも、都市中間層もしくは高所得層であると言える。現在居住しているコンドミニアムの所有形態としては、所有と賃貸がおおよそ半々である。
では、彼らは現在居住しているコンドミニアムに引っ越してくる以前は、どこに住んでいたのだろうか。バンコク及び周辺5県から引っ越してきた人の割合は全体の91%であり、そのうちバンコク周辺5県は22%、バンコクは69%である。バンコク内では、都心部が全体の37%、郊外部が32%である。バンコク周辺5県とバンコク郊外部を合わせると全体の54%が都心部に内に向かって引っ越しており、スプロールの防止という面では、一定の効果があると言えよう。
引っ越し理由についても聞いたが、最も多かったのが自分もしくは配偶者の職場の位置の変更であり、全体の半数を占めた。下図に示すように,確かに回答者自身の職場の位置は全体として、引っ越し後の方が都心に近くなっている。

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引っ越し前の従業地

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引っ越し後の従業地

引っ越し前後の世帯の自家用車の所有については、所有率については引っ越し前後で60%とあまり変化はないが、平均所有台数は1.40台から1.17台と減少しており、2台目の車を引っ越しに伴って手放した世帯が多くあることが分かる。
引っ越し前後の通勤交通に関しては、引っ越し後は公共交通の利用率が上昇し、自家用車の利用率が減少しているが、依然として27%が自家用車で通勤している点は注目に値しよう。

このように、バンコクにおいて都市鉄道の開業に伴う、鉄道駅周辺でのコンドミニアム開発により、とくに郊外に住んでいた都市中間層が都心に住み、公共交通の利用も増加したという効果があった。しかしながら、注視しなければいけないのは、コンドミニアムの居住者の大部分は独身もしくはこどものいない若い夫婦であり、彼らが家庭を持ちこどもを持った後に、どこに居住し、どのような交通行動を取るかである。都心部をよりファミリー層に魅力的な場所にしていくかが今後の一つの課題となるであろう。

出典:Mihoko MATSUYUKI, Ryo WAKAMIYA, Kittima LEERUTTANAWISUT (2013) Study on Lifestyle Transformation under the Influence of Rail Transit in Bangkok-Focusing on Condominium Development along Rail Transit -, Proceedings of the Eastern Asia Society for Transportation Studies, Vol.9 (2013) link